部員ブログ「ああ、もう。」小川茂展
「ハシレ、ハシレ、ハシレ、・・・」おぼろげな声が遠くの方から聞こえてくる。
「タタカエ、タタカエ、タタカエ、・・」段々と声が近くなり形を帯びてくる。
「はあ、はあ」息が切れて心臓がドクドクと脈打つ。
「ピーーーーーー!」と言うホイッスルの音と共に目が覚めた。大学2年生夏のこと。
「またあの夢か」私はため息を漏らす。
2年前、高校3年生の5月、自分がレギュラーとして挑んだインターハイ予選、チームは
7連勝の快進撃、あと1勝で県大会というところまで来ていた。県大会をかけて戦った相手は、冬の新人戦で惜しくも敗れた因縁の相手だった。35分ハーフの試合は終始私たちが押していた。しかし何度もポストに嫌われお互い得点が無いまま延長戦に突入。延長戦でも両者点が奪えないままアディショナルタイム目安時間を超えた。このままPK戦になるかと思われた、その時、相手のカウンターからクロスをあっさり決められ、我々のリスタートと共にホイッスルが鳴った。
「ああ、もう。」
私はやるせない気持ちになった。これだけ攻めていてもまた負けるのか、と。
そして、その後の選手権予選は50人いた3年生のうち、私を含めた5人しか残らず、それでも良い試合はしたがまた後1試合というところで敗北、またしても県大会出場は叶わなかった。
・・・
それから8ヶ月、私は九州大学に入学し、コロナ禍で活動は制限されているとはいえ、さまざまなサークルになんとなく参加してそれなりに楽しい大学生活を送っていた。
でも、そのような非刺激的な生活を送り続けていると、またあの夢を見る。
「ああ、もう。」と起き上がる日々が増えていった。
そんな生活を続けている内に大学2年生の夏になった。
実家の母から、私宛に手紙が来ていることを聞いた。実家が福岡県内にある私は後日、
その手紙を受け取りに行ったのだが、そこで私は驚きの光景を目の当たりにした。
手紙の差出人は私だったのだ。どういう事かと思ったがその謎はすぐに解けた。
私が通っていた中学校では、中学3年生の時に、5年後の20歳になった自分へ手紙を書くという文化があった。そう、私が受け取った手紙は5年前の自分からの手紙だったのだ。
そこには、「大学生になった自分が、当時のライバルに負けない選手になっているのか、また、彼のチームに負けていないか。」という内容のことが書かれていた。
手紙を読み終えた後、私はとても恥ずかしく、また情けない気持ちになった。
なぜなら、例のライバルは大学サッカーで1年のうちからトップチームの試合に出ているにも関わらず、私はサッカーすらしていなかったからだ。
そこから2ヶ月、私はバイトやサークルなどに蹴りをつけて、
大学2年の秋、九州大学サッカー部に入部した。
それから半年、サッカー中心の生活を送っている。綺麗な芝生、ボールなどの器具、環境に感動しつつ、楽しんでいるが、やはり大変なことも沢山ある。
他の大学生に比べて遊びに行く機会は少ない。
朝から練習がある時は起きるのが辛い。
うだうだしてたら『もうちょっと。』
抜け出せない、毛布に包まりたい。そう思うことも多々あるのが正直なところではあるが、そんな時でも、5年前の自分に見せるのは恥ずかしい、そうは思いたくないから、
「ああ、もう。」
そう言って今日も私はグラウンドへ足を運ぶ。
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