部員ブログ「やはり僕は、嘘をつくのが苦手らしい」赤道洸太

「ダウト―‼」

A君はB君を両手で指差す。

「なんで俺ん時だけばれんだよ」

B君は納得いかない表情で、床に重なったトランプを手元に引き寄せる。

周りのみんなは、今日何度も見たであろうその光景に、飽きもせずまた爆笑する。

大学生らしい夜の宴がそこには広がっていた。机の上に散乱した空き缶とお菓子の袋、そして部屋に漂う少しいかした音楽が青年たちを別世界へと誘う。少し赤みがかったその部屋は、青年たちから、何もかもを忘れさせた。何もかも、だ。

このB君、これが大学一年生の僕である。とにかく僕は嘘をつくのが苦手らしい。大学生になって思い知らされた新たな僕の一面だ。「ダウト」というトランプゲームは、ルールはシンプルだが、嘘の苦手な僕からしたら天敵だった。

大学生になった僕は、毎日のように友達と過ごした。高校生の時とは全く違う生活に、胸を躍らせ続けていた。この時は、まさか自分が週5回もサッカーをすることになるなんて思いもしなかった。だって、本気でサッカーをするのは高校生で引退したはずなのだから。

県で最もサッカーが盛んな高校に進学した僕は、ひたすらサッカーに励んだ。もちろん、将来の夢はプロになって活躍することだった。それなりに自分はサッカーが上手いと思って入学したわけだが、現実はそう甘くはない。頑張っても頑張ってもうまくいかない。本気でやれば本気でやるほど、自分の限界というのを感じてきていた。

高校2年生の冬、僕はプロになることを諦めた。いや、気づいたら自然とプロを諦めてしまっていたという表現が正確かもしれない。心のどこかでプロを諦めていることを自覚したのがこの時だった。

それに気づいてから、本気でサッカーをするのは高校までにしようと決めた。ただ、高校生の間は自分の全てを懸けようと改めて覚悟を固めた。何もかもをサッカーのためにと思って頑張り続けた結果、全国大会に出場することもできた。これまでにない、これからもそう感じることはできないであろう喜びを纏うことができた。周りに助けられてばかりで、自分一人では決して成し得ることのできなかった結果だが、自分の中では納得できる形で高校サッカーを終えられた。

そして、大学に進学した。サッカー以外の新たなことに挑戦したいという気持ちがありながらも、まずは友達を作って大学生らしいことをしたいという気持ちの方が強かった。新たなことに挑戦するのはその後でいい、そう思っていた。結局、一年生の間は友達と遊んでばかりになった。楽しかったのだから仕方がない。友達と騒いでいる時は何もかもを忘れさせてくれる。日常の嫌なことも、そして、自分が心の奥で感じている日常への少しの物足りなさも。

しかし、次第にそんな自分にも嘘がつけなくなってきた。もっと刺激がほしい、隠れていたその思いと対面した。そんな時、サッカー部の体験に行くことになる。なぜ行こうと思ったのかは正直よく覚えていない。ただ、もう一度本気でサッカーをしようという気はなかった。

しかし、体験に行ってその考えがすぐ崩された。それは、サッカー部には指導者がいないということを聞いたからだ。九州大学サッカー部は部員主体で練習や試合をしていたのだ。これを知った時、僕は少しだけときめいてしまった。自分たちで試行錯誤しながらチームを作り上げていくなんて楽しいに決まっているではないか。そのときめきが膨れるのはそう遅くはなかった。まもなくして僕は、サッカー部に入部した。サッカーを新しい側面から楽しみたいと思い、学生コーチになることを決めた。この立場になってまだ間もないが、これからが楽しみで仕方がない。

まだ太陽も顔を見せていない灰色の景色、僕は両手でヘルメットを持ち上げる。早朝の空気は澄んでいて素晴らしい。ただ、太陽が出ていないのがどこか物足りなさを感じさせる。そんなことをふと思いながら首元のベルトを締める。すると、肌寒いで済むはずもない冷気が僕のうなじをなめた。そんな冷気に少し身震いをする。少しだけ温かい吐息が、目の前のガラスを靄で覆い、視界が少し曇る。ブルンブルンと車体を鳴らし、両足を地面から離す。芝生へと続く長い一本道、激しい向かい風が次第に僕の体になじみだした。そして、曇ったガラス越しに少しばかりの愚痴をこぼす。

「なんで大学生にもなって朝からサッカーなんだ。こんなの大学生のやることじゃねえだろ」

少し明かりを含みだしたその朝は、少しずつ僕の体を照らし始める。靄の向こうのその表情は、微かな笑みを浮かべていた。

 

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